2025.03.04
【WRH】髙須 大輝准教授がアメリカのマサチューセッツ工科大学に滞在しました。
髙須 大輝准教授がWRHプログラムの支援を受けて約半年間のアメリカのマサチューセッツ工科大学滞在を終えて帰国しました。
今回の派遣による成果と期間中の様子を報告いただきました。

The MIT Reactorが隣接する研究実施場所(右奥のオレンジの建物)
派遣者 | 髙須 大輝准教授 |
派遣先機関の名称 | マサチューセッツ工科大学 |
派遣先機関の国・都市 | アメリカ・ケンブリッジ |
派遣先機関の受入研究者名・職名 | Ju Li・Professor |
派遣期間 | 2024年 6月 17日 ~ 2024年 12月 23日 (190日間) |
共同研究の題目 | (日本語)高電流密度運転可能な中温むけCO2電気分解セルの開発 |
(英 語)Development of intermediate-temperature CO2 electrolysis cells for high current density operation |

高須准教授 (左)/リー教授 (右)、研究最終日
二酸化炭素(CO2)の電気分解(電解)ではCO2を有用な炭素資源に変換することが可能であり、主にこれまで二種類の電極と電解質から構成される低温むけ(アルカリ形、固体高分子形)や高温むけ(固体酸化物形)電解セルが用いられてきた。しかし、その間にあたる中温域で高電流密度運転可能な電解セルは主に材料面からの制約があり、既往の開発報告は殆ど無い。そこで、本共同研究では160-350℃の中温において高電流密度運転可能なCO2電解セルの開発を目標に据え、派遣期間中には下記の内容に取り組んだ。
実験に先立って研究案および開発内容について、先行研究調査を実施の上、Ju Li教授や複数の研究員らとディスカッションを実施した。その上で、本派遣期間中には、間接的なCO2電解となる水蒸気共存下で駆動可能な電解セルの電解質材料の探索に焦点を当て開発に取り組むこととした。より具体的にはプロトン伝導性固体電解質の材料検討について材料候補を選定して、160-350℃の中温域を中心に評価を実施することとした。実際の試験では水蒸気圧環境下におけるプロトン伝導性評価が必要になるため、簡易な試験装置の設計から組み上げも実施した。
実施した先行研究調査を元に、2次元層状材料および3次元構造材料から中温むけのプロトン伝導性固体電解質候補を選定し、電解質作製から評価を実施した。2次元層状材料候補としてはアンチモン含有の複合酸化物について、合成条件や成膜手法の検討から着手し、材料微細構造観察や膜に対して垂直や水平方向におけるプロトン伝導性評価を実施した。成膜には真空ろ過を適用し、事前に異なる遠心力条件下で分離した試料を水溶液中に分散させ、厚み30μm程度の膜を作製した。得られた膜は200℃程度までの温度域で水平方向において高いプロトン伝導性を確認することができた。垂直方向においては水平方向に対して1/1000程度までプロトン伝導性が大幅に低下することが確認され、層状構造の各層間中のプロトン移動が促進されていることが示唆された。
3次元構造材料についてはリン酸チタニア化合物を選定し、異なる酸性度を有する酸化物によるドーピングと水素化によるプロトン伝導性への影響評価を実施した。ドーパントには酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムを用いた。試料は評価のため金型を用いた一軸成型を行い直径1cm、高さ0.5cm程度の円柱ペレットを作製した。作製した各試料はドーパントの種類に応じて最大約100倍程度のプロトン伝導性の違いが確認された。特に水素化を行った試料についてはより優れた性能を示した。ただし、温度が高くなるに伴い、いずれの試料においても性能の低下が継続的に確認されたため、この部分は主材料の変更など含めた今後の対応が必要であることが分かった。
本派遣期間を通じて中温域で駆動可能なプロトン伝導性固体電解質の材料探索を行った。これまで触れてこなかったような異なる材料の合成検討から評価までを一貫して実施したことで新たな研究シーズを複数見出すことができた。今回の評価は時間的な都合上、簡易的な試験装置を用いて実施したが、今後研究室内に詳細評価用の試験装置を導入し継続した検討を本学でも実施予定である。また、MITや周辺地では頻繁にセミナーや学会などの情報収集の機会があり、多くのイベント(MIT A+B、MITEI annual research conference、MIT各講習会、MRS fall meeting等)に参加することができた。特に分野融合研究が活発に行われているMITにおいては、そのような場での異分野知識習得と研究者間の交流促進が根底にあるような印象を強く受けた。本派遣を通じて研究のみならず、他研究員とのコミュニケーションや異国での研究スタイルを直接体験することができた点も非常に良い経験となった。最後に、本プログラムのご支援により今回の訪問ができたことに心から謝意を表します。
関連リンク
– World Research Hub(WRH) プログラム
– 東京科学大学 高須研究室