IRFI 東京工業大学国際先駆研究機構

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2024.03.11

【WRH】笹本智弘教授がキングスカレッジ(ロンドン)に滞在しました。

笹本智弘教授がWRHプログラムの支援を受けて約2か月のロンドン滞在を終えて帰国しました。
今回の派遣による成果と期間中の様子を報告いただきました。

 

派遣者 理学院 教授 笹本智弘
派遣先機関の名称 キングスカレッジ ロンドン
派遣先機関の国・都市 英国・ロンドン
派遣先機関の受入研究者名・職名 Benjamin Doyon・教授
派遣期間 2023年12月12日 ~ 2024年2月16日 (67日間)
共同研究の題目 (日本語)対称性の高い非平衡多体系における揺らぎの研究
(英 語)Fluctuations of non-equilibrium many-body systems with symmetries

 

2023年12月12日から2024年2月16日の期間で、キングスカレッジロンドン(英国)のBenjamin Doyon教授の元に滞在し、「対称性の高い非平衡多体系における揺らぎの研究」というテーマに関する共同研究を行った。Doyon教授は、2019年10月に本学の「英語授業開講に伴う外国人教員の雇用支援経費」を用いて本学に招聘した研究者であり、その後共同研究を開始し、2022年に関連するテーマに関する基本的な論文[1]を発表していたが、今回の滞在中の共同研究は、その研究をいくつかの方向に発展させてゆくことが目的であった。

2ヶ月以上の期間に渡って緊密に議論を行うことにより、2022年の論文[1]では取り扱えなかったいくつかの問題について研究を進展させることができた。例えば、論文[1]においては、衝撃波が存在する状況は扱うことができていなかったが、滞在期間中1成分系における衝撃波が存在する場合について詳細に調べることにより、その基本的な理解を得ることができた。今後はその理解を深めさらに明確にしたのち、多成分系も含めた一般的な理論に発展させる予定となった。また論文[1]の一般論を1成分系について詳細に議論することも有益であるという認識となり、論文の準備を始めた。

論文[1]においては、大偏差と呼ばれる大きな揺らぎについての理論を構築したが、系の持つ非線形性によっては、KPZ揺らぎとよばれる特異的な揺らぎが存在する場合もある。滞在期間中はこのような特異な揺らぎを一般論に取り入れるための予備的な研究も進めた。特にKPZ方程式と呼ばれる基本モデル方程式を取り扱ういくつかの異なった手法を比較し、特異的な揺らぎが現れるメカニズムの理解を目指した。現時点では明確な理解に到達できたとは言えないが、解決すべき課題はかなり明確となったため、今後引き続いて検討を進めることとなった。

また、Doyon教授の研究室メンバーと議論している際、論文[1]で取り扱ったような大偏差理論が、一見全く関係ないように思われるゲーム理論と関係している可能性に気づき、その理解を深めるための議論も行なった。その結果、ゲーム理論の方で知られているいくつかの概念が、非平衡多体系の性質の理解に役立つ可能性があることがわかった。現時点では、知られている性質に類似性が見られるという位の理解であるが、具体例において検討を進めることにより、関連をより明確にすることができると期待できる。

他にも、2成分系の性質を詳細に調べることが有用であること、保存量が沢山ある系における特異なガウス揺らぎについての一般論を構築すること、低温となり量子性が効いている状況での理論を検討すること、などについて議論を行なった。

今回の共同研究に基づいて、滞在中に論文が完成するところまでは行かなかったが、今後連絡を取り合って多角区的に研究を進め、論文として発表することを目指すこととなり、大変有意義な滞在となった。

[1] B. Doyon, G. Perfetto, T. Sasamoto, T. Yoshimura, Ballistic macroscopic fluctuation theory, SciPost Phys. 15, 136 (2023)

関連リンク
– World Research Hub(WRH) プログラム
– 笹本智弘研究室

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