開催報告:第5回WRHI講演会(7月29日)

開催報告:第5回WRHI講演会(7月29日)

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第5回WRHI Lecture Series開催報告 (2019年7月29日)
 第5回目となるWRHI Lecture Seriesが、7月29日にR2棟1階のオープンコミュニケーションスペースで開催されました。WRHI Lecture Seriesは、世界の第一線で活躍しているWRHIの研究者が、最新のトピックスを提供し、議論する場となっています。今回は、細胞生物学グループの志見剛博士とJinhua Dong博士、材料・デバイスグループのSilvia Haindl博士にご講演いただきました。司会は、フロンティア材料研究所(WRHI運営委員会委員長)の東正樹教授が務めました。
本レクチャーシリーズには、約30名の研究者が参加し、梅雨明けの熱気さながらの熱い議論が交わされました。

志見 剛 博士

Nuclear lamins provide a structural framework that anchors nuclear pore complexes

動物細胞の核は、ゲノム全体が核膜によって包み込まれることによって、細胞質から分離しています。核ラミナは、核膜の内側を裏打ちする繊維状の構造であり、核の大きさ、形、硬さを調節しています。一方、核膜孔複合体は、核膜を貫通することによって、核-細胞質間における高分子の移動を調節しています。ラミナの主要な構造タンパク質である核ラミンは、その遺伝子座で見つかった500箇所以上の変異によってラミン病と総称される様々な遺伝病を原因することが知られています。最近、志見剛博士らは、ラミンが核膜複合体の分布の決定に関与していることを明らかにしました。ラミンと核膜複合体の相互作用について理解することは、ラミン病の発症機序の解明に繋がるかもしれません。

講義要旨
核ラミンは、Ⅴ型中間径フィラメントタンパク質であり、細胞核の構造骨格を担う重要な役割を持つ。我々は、野生型マウス胚線維芽細胞(MEF)において、ラミナの網目構造がどのようにして核膜複合体の分布を決定するのかを調べるために、ノックアウトやノックダウンによるこれらの構造の変化を、サブピクセルコンピュータ画像計測と組み合わせた蛍光構造化照明顕微鏡法(3D-SIM)やクライオ電子線トモグラフィー法(cryo-ET)によって検出した。

ラミンA/CまたはラミンB1のノックアウトMEFでは、核膜複合体がラミナの網目構造のファイバーに沿って分布していることが分かった。また、3D-SIMのマルチオリエンテーション画像分析とcryo-ETの平均化を行った結果、⑴ ラミンファイバーから核膜複合体の中心までの距離は65−100 nmであり、核膜複合体の半径よりわずかに大きいこと、⑵ ラミンファイバーが核膜複合体の核質側リングの間に接触していることが明らかになった。さらに、核膜複合体を構成するヌクレオポリンであるNup153とElysをノックダウンすると、ラミンファイバーに対する核膜複合体の空間的配置を変化させることを見出した。これらの結果は、ラミンA/CとラミンB1が、特定のヌクレオポリンを介してラミナの網目構造の形成や核膜複合体の分布の制御に関与することを示している。

コンピュータ画像計測を組み合わせた3D-SIM やcryo-ETを使用した我々の計量的アプローチは、ラミンと核膜複合体の相互作用に関係する生理学的特徴や病理学的変化の解明に寄与するだろう。

Silvia Haindl 博士

Superconductivity meets Magnetism

Silvia Haindl博士は、鉄系超伝導体の研究を行っており、鉄系超伝導体薄膜の第一人者です。本講演では、超伝導と磁性の共存について概説していただきました。また、ご自身の最近の研究成果と、鉄系超伝導体薄膜のエレクトロニクスや情報技術への応用可能性についてご紹介いただきました。

講義要旨
鉄系超伝導体(鉄プニクチドや鉄カルコゲナイド化合物)は、電子相とその相互作用が豊富であるため、現代の凝縮物質物理学において大変魅力的なテーマである。特に、鉄系超伝導体の薄膜研究の多くは、
FeSe(逆-PbO-型構造; 空間群: P4/nmm)
BaFe2As2(ThCr2Si2-型構造; 空間群: I4/mmm)
LaOFeAsあるいはSmOFeAsの鉄オキシプニクチド(ZrCuSiAs-型構造; 空間群: P4/nmm)に集中している。

これらの化合物のフェルミ面と電子的性質は、主にFeの3d状態と軌道によって決まっている。この電子状態と軌道、つまり電子的性質は、外からの力や系への電荷キャリアのドーピングにより変化する。超伝導状態は、圧力やひずみ、あるいは(遍歴電子のある)反強磁性相の近傍での元素置換によって、よく現われる。従って、スピン揺らぎは、これら化合物における非従来型クーパー対機構(non-BCS)の起源とみられている。

講演では、はじめに、2つの巨視的量子現象として、超伝導と磁気について解説された。磁石の利用は人類の歴史の初期にさかのぼるが、我々の深い理解は電子力学と量子理論(軌道・スピン磁気モーメント)により確立された概念に基づく。超伝導現象は、液化ガスによる低温下でのみ発見され、発現できる。超伝導の基本特性(完全伝導性、完全反磁性、磁束量子化)は、有名なBardeen-Cooper-Schrieffer(BCS)理論で説明することができる。この理論では、いわゆる(従来型の)クーパー対の形成について述べられている。本講義では磁場あるいは磁気モーメント下でのクーパー対の破壊、これは2つの全く反対の状態である超伝導と磁気の概念を導くものであるが、について議論する。一方、磁場においても発現する超伝導、あるいはスピン揺らぎが効果的なペアリンググルーとなっている超伝導では、非従来型クーパー対と言われる別のシナリオもある。

Jinhua Dong 博士

Antibody Engineering for Exploring Novel Analytical Technologies and Medicines

抗体は、医療分野において大変有用なツールです。本講義では、Dong博士が携わってきた、診断や治療応用に向けた抗体の研究開発についてご紹介いただきました。Dong博士が開発したユニークな抗体は、新たな医療技術を提供するかもしれません。

講義要旨
抗体は、脊椎動物の適応免疫系における重要な分子で、高い特異性と親和性で抗原を認識するため、物質の検出や同定に使用される。また、抗体は、免疫センサとしてだけでなく、がん、自己免疫疾患などの治療における医薬としても利用されている。本講義では、Dong博士が開発した、抗体をスクリーニングするためのファージディスプレイ技術と独自の抗体―抗原結合ディスプレイシステムのpDong1について解説された。

Dong博士は、pDong1システムにより、抗高病原性H5N1ウイルス抗体、抗リノレン酸過酸化物13-E,E-HODE抗体、抗ムチン抗体を含む多くの抗体を作成した。そして、抗体を使用し、オープンサンドウイッチ免疫測定法の原理を基にした抗原検出法を確立した。また、アルツハイマー病のバイオマーカーであるアミロイドβを検出する、Quenchbody(Q-body)を開発した。Q-bodyは、抗体断片の抗原結合部位近傍を蛍光ラベルしたもので、抗原物質を迅速かつ高感度に検出できる。Q-bodyは、光誘起電子移動に基づく新しい免疫センサで、抵コストで実用的な測定システムの迅速な開発を可能にすると期待される。講義の最後には、抗体医薬開発に関するDong博士の最新の研究成果を紹介した。

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