材料・デバイス研究

MFI型ゼオライト骨格内Al原子分布の解明に向けて

研究概要

ゼオライトのシリカ骨格にAl、Fe、Ti、Ga、Snなどの“ヘテロ原子”を導入することにより、ゼオライトの細孔(ナノ空間)内にヘテロ原子に由来する「触媒能」、ヘテロ原子の電荷に基づく「イオン交換能」を発現させることができる.これらの機能はヘテロ原子の“種類”と“導入量”に大きく依存する.最近,これらの因子に加え,ゼオライト細孔内の“ヘテロ原子の位置”も大きな影響を及ぼすことが見出されている.何故なら“ヘテロ原子の位置”は細孔内での触媒活性サイトやイオン交換サイトに等しいからである.もし,ヘテロ原子に起因する活性点が外表面や細孔入口付近に存在していれば,ゼオライト触媒において重要な「形状選択性」は大きく低下する.細孔の交差点(インターセクション)やスーパーケージのような広い空間に活性点が存在していれば,触媒反応における選択率や寿命,イオン交換能における対カチオンの種類(サイズ)に影響を及ぼすであろう.一方,ヘテロ原子が骨格内のどこに存在しているかという構造解析手法についても計算科学によるアプローチがなされているものの,決定的な手法は確立されてはいない.ヘテロ原子の位置と機能(イオン交換特性や触媒性能など)の関係解明はゼオライトの高機能化につながる.

我々はMFI型アルミノシリケートであるZSM-5のAl分布の位置制御に取り組んでいる.通常、MFI型アルミノシリケートであるZSM-5はテトラプロピルアンモニウムカチオン(N(CH 2 OH) 4 + ,“TPA + ”)を有機構造規定剤として用い、Na + 共存下合成される(このZSM-5を[TPA, Na]と表記).一方,ZSM-5はNa + 非共存下TPA + のみでも合成できる(このZSM-5を[TPA]).TPA + の分子サイズを考慮するとTPA + はMFI型ゼオライトのインターセクションにのみ存在可能であるのに対して,Na + は細孔内どこでも存在できる.よって,[TPA, Na]の場合,Al 3+ の対カチオンはTPA + とNa + の両方であるため,結果としてAl原子は細孔内に均一に存在する.一方、[TPA]の場合,Al原子は細孔のインターセクションに優先的に存在することを見出した.また最近,多価アルコールの一種で,構造がTPA + と類似しており,電荷をもたないペンタエリストール(示性式C(CH 2 OH) 4 ,PET)を用いて,Na + 共存下、ZSM-5の合成を行うと(このZSM-5を[PET, Na]と表記)Al原子はインターセクション以外,ストレートチャンネルやジグザグチャンネル内に選択的に存在させることができることを見出した.

現在、Al原子の位置に関してさらに正確な情報を得るために、リートベルト法による結晶構造解析に取り組んでいる.得られたAl位置に関する情報を合成手法にフィードバックし、より精密な位置制御手法の開発につなげ、触媒性能の高性能化を目指している。

Fig. 1: Structure plots showing the position of the electron density maxima of NFS as refined. The green ball indicates the channel intersection as guide for the eye. (Left) the [TPA] sample is shown with a distribution of 10 sites over the pore system. (Right) the 5 sites in the [PET+Na] sample are shown avoiding the center of the IS, instead preferentially localizing to sites inside the connecting channels. Fig. 1: Structure plots showing the position of the electron density maxima of NFS as refined. The green ball indicates the channel intersection as guide for the eye. (Left) the [TPA] sample is shown with a distribution of 10 sites over the pore system. (Right) the 5 sites in the [PET+Na] sample are shown avoiding the center of the IS, instead preferentially localizing to sites inside the connecting channels.