海外研究機関派遣支援報告第1弾 寒野善博准教授
活動報告
平成28年度WRHI国際研究ハブ構築ための海外研究機関派遣支援のプログラムにより、INRIA Grenoble Rhone-Alpesの研究チームBiPoPを訪問した。INRIAはフランス国内に8ヶ所の拠点をもつ国立の研究所であり、Rhone-Alpesはそのうちの一つである。INRIAの主な研究分野は情報学・計算科学・制御・数値解析などである。たとえば数値計算システムScilabは、INRIAで開発されたソフトウェアとして広く知られている。また、INRIAは研究成果の技術移転や企業からの受託研究が多いことでも知られている(これは、INRIAがフランス研究省だけではなく経済・財務省にも管轄されていることにも由来している)。

BiPoPは、Bernard Brogliato教授をリーダーとするINRIA内の研究チームである。研究テーマはnonsmooth mechanics(非滑力学、または非平滑力学)を中心とし、制御、計算固体力学、ニューラルネットワークなどを含む。Nonsmooth mechanicsとは、場合わけや条件分岐を含む系を、近似やad hocな方法に頼ることなく扱う強力な方法論である。たとえば、複数の固体の接触問題では、接触と離間という二つの状態で支配則が切り替わることが問題を複雑にしている。このような問題を系統的に扱う理論と解法の体系が、nonsmooth mechanicsである。Nonsmooth mechanicsの対象は、接触・摩擦を伴う多体系、弾塑性体、粉体、半導体を含む回路、経済ダイナミクスなど多岐に亘る。
今回の訪問は、2017年1月16日から20日の5日間であった。その間、特にBrogliato教授やAcary博士と、今後の共同研究の課題や外部資金の申請の可能性などについて議論を行った。 また、セミナーを開き、非滑力学の諸問題について、BiPoPの多くのメンバーと活発な議論を行った。特に、非滑力学の数値解法と最適化における各種のアルゴリズムとの関連性が議論の中心であった。短い滞在期間ではあったが、これまで電子メールのやり取りのみしかなかったBrogliato教授やAcary博士と実際に対面で議論を行ったことは今後の研究活動の展開において有意義であった。特に、数学的に緻密な議論を要する共同研究を推進するためには、実際に白板を前にして議論を行うことが重要であることを再認識した。
この訪問に際しご支援をいただいたWRHIご担当者の皆様に感謝申し上げます。