第3回WRHI講演会開催報告(9/19)
イベント報告
第3回WRHI講演会開催報告 (2017年9月19日)
世界の第一線で活躍しているWRHI招聘研究者が、最新のトピックスを提供するWRHI講演会は、9月11日(水)で3回目を迎えました。 会場のすずかけ台R2棟のオープンコミュニケーションスペースには、教職員や学生が三々五々集まり、開始時にはほぼ満席となりました。 フロンティア材料研究所の東正樹教授の司会で、今回のテーマは材料分野から2件、ロボット分野から1件の講演がありました。



最初は、Dr. Volodymyr Chernenko による「Magnetic shape memory materials for actuation and energy conversion」です。Dr. Chernenkoは、スペインの University of Basque Countryより、本学のフロンティア材料研究所に特任教授として赴任されました。 本日のテーマは強磁性形状記憶合金(FSMAs)に関するものです。 形状記憶といえば、2つの結晶相、すなわち立方晶オーステナイトと正方晶マルテンサイトの間の熱または応力誘起変態に起因する材料の大きな可逆変形を想像しますが、今回は磁場の適用によるものです。 これには、ホイスラーFSMAと呼ばれる材料を使います。 このような材料は、転移温度付近で深い格子軟化を示し、機械的応力と同様に、磁歪が強磁性結合によって磁場により誘起され、マルテンサイトの双晶境界の可逆的な動きを引き起こします。 温度変化によって駆動される従来の形状記憶合金とは異なり、磁場によって高速作動(~kHz)が可能であり、例えばミシン針や高精度変位センサなどの新たな応用が拓けます。 FSMA素材は、特定の機能を持つデバイスとしての側面もあり、未だ新しい研究分野ですが、多くのアプリケーションの可能性を含む、大いに楽しみな分野です。

次に、ドイツの Technische Universität Darmstadt の材料科学研究所より招聘された Dr. Jürgen Werner Rödel が講演を行いました。 テーマは「Lead-free piezoceramics」です。 近年、環境対策のため、電子部品の分野でも有害元素の使用が世界的に抑制されています。 鉛についてはハンダからは駆逐できましたが、圧電セラミックについては性能上の課題があり未だ進んでいません。 圧電素子と言えば、電気と機械の間のエネルギー変換デバイスとして知られ、微小位置決め装置や、インクジェットプリンタ、紡織機のスレッド、マイクロモーター等々多くの装置に使われており、その非鉛化は喫緊の課題となっています。 このため、鉛に替わる材料の研究が行われ、現在ではアルカリニオブ、ビスマス、チタン酸バリウム等をベースにした新材料が注目され、その構造や特性、機械的強度等の研究が進んでいます。 現在は未だ量産化に至っていませんが、やがて鉛の圧電セラミックは減少していくでしょう。 地球環境を守るのも科学技術の重要な役割です。

最後の講演は、ポーランドのクラクフにあるComplex Systems Theory Department of the Institute of Nuclear Physics – Polish Academy of ScienceとイタリアのTrento Universityより招聘された Dr. Ludovico Minati による「Versatile bio-inspired control of a Hexapod robot using a network of non-linear oscillators」です。 この研究の目的は、様々な運動行動を制御する一連の信号を生成することによって、蟻やゴキブリなどのような昆虫を想定したヘキサポッドロボットを操作することです。 生物の神経系は複雑なネットワークで構成されており、歩行制御を担当する部分は、おそらく、一つ中央、及び多数のローカルパターンジェネレータで構成された電子回路で置き換えることができます。 このコントローラーは、5つのパラメーターだけを設定することで、昆虫歩行のさまざまなモードを示すことができるだけでなく、脳のコンピューターインターフェースを介した制御にも役立つものと考えられています。 実際に六脚ロボットによるデモンストレーションを行いました。 ゆっくりとした波動歩行によるゴキブリのような姿勢での歩行、逃げるときの速いスピードでの三脚歩行による蟻のような姿勢での歩行が見事に再現されました。 脳科学の研究にはさまざまなアプローチがありますが、この方法は、小さな電子ネットワークでもいくつかの現象が再現できるという仮説を立証する手段として説得力がありました。