細胞生物学研究

次世代免疫センサー国際研究プロジェクト

研究概要

抗体は,タンパク質から低分子まであらゆる分子を特異的かつ高い親和性で認識可能な希有なタンパク質であり,これを用いた免疫測定法は疾病の診断のみならず食品中や環境中の環境汚染物質の検出において極めて重要な役割を担っている。本プロジェクトでは,バイオマーカータンパク質や低分子ホルモン,さらに環境汚染物質に対する抗体をファージ提示法などにより取得し,そこから得られた抗体遺伝子を用いて,簡便迅速高感度な新規免疫センサーを開発している。これにより,これまでにない実用的な臨床診断・簡便な環境汚染物質検出系の構築を目指している。

  1. ファージ提示法による有用抗体の取得
    ファージ提示法は2018年のノーベル化学賞を受賞した分子進化技術であり,タンパク質をコードする遺伝子をファージ遺伝子と融合させることで,ファージの表面に発現させたタンパク質を結合能で選択できる。この原理に基づき,特徴を持ったファージ抗体ライブラリーを作製し,免疫系の制約なしに人工抗体を創製することが可能である。当研究グループでは,この方法を用いて多くの抗体遺伝子をクローン化し,これをもとに抗体の親和性向上などの機能改良を行っている。
  2. オープンサンドイッチ免疫測定法
    現在免疫測定において最も広く使われるサンドイッチELISA法は,2種類の抗体を用いる反応洗浄ステップが多いもので,金銭的・労力的に高コストである。さらに抗原が低分子の場合は2種類の抗体が結合できず,実施が不可能である。これに対して我々が見いだしたオープンサンドイッチ免疫測定法(OS-IA)では,1つの抗体由来の重鎖と軽鎖の2つの可変領域断片(VH/VL)の抗原依存的な会合現象を用いることで,低分子であっても非競合的に検出が可能となる。本研究プロジェクトでは,OS-IA原理に基づいた迅速高感度な各種免疫センサーの可能性を追求している。
  3. Quenchbody蛍光プローブ
    Quenchbody (Q-body)とは,OS-IA研究中に見いだされた蛍光色素を抗原結合部位近傍に部位特異的に標識した抗体断片のことであり,標識法を工夫することで疎水性の色素が消光状態になり,抗原結合によってこれが解除される。すなわち抗原結合を蛍光強度の上昇として検出できるため,原理的に洗浄操作が不要な迅速簡便な抗原検出系が構築できる。さらにOS-IAで測定が難しい高分子タンパク質の検出も可能な利点があり,これに適した抗体選択法の開発や,低コストかつ実用的な測定系への発展をテーマに研究を進めている。
OS-IAの原理 OS-IAの原理
Quenchbodyの原理 Quenchbodyの原理